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芸術のなかに持ちこまれる素材は、技術革新と足並みをともにしている。 ただ、現代は多様な技術や物質がおびただしく混在している時代だ。
トニー・クラッグによれば、アクリルやアルミニウム、それにガラス繊維を使うことで、産業社会のもつダイナミックな動きを諌められるという。 プラスチックはとくに利用価値が高い。
クラツグアトムは産業廃棄物を意図的に使ったが、「廃棄物のもつ原子構造と作品内での原子の役割によって、あるいは、作品の形状や輪郭や色彩によって、貧相な素材がトニーに特異な発想をもたらす」と評された。 彼は色を考慮し、組みあわせを考えながら、プラスチック製のペットボトル、掃除機の部品、レンガなどを駆使し、モンタージュを作りあげていった。

彫刻では、古いくず鉄が重要な位置を占めた。 溶加材を使わないで溶接〔自生溶接、あるいは酸素・アセチレン溶接〕ができるからだ。
自生溶接によって、鋳鉄、製鉄、鉛、鋼鉄といったバラバラの金属片をつなぎあわせることができる。 「あふれるほど」彫刻が作られた時代を経て、現代の彫刻家は空白を取りいれた作品を創作している。
なかでも、自動車や動物をモチーフとしているカルデは、鋼板を裁断し、缶づめの空き缶を小さく切片状に刻んで、一九六五年には彼の名を有名にした『サッシエの鶏』と題する作品を発表している。 カデル自らの前世のイメージがそのまま形をなしたものであったが、鶏の腹部にぶら下げられた空き缶の切片を見れば、このユーモラスな作品の制作にどんな素材が使われたのか、はっきりと見てとることができる。
彫刻家セザールがくず鉄に着目したのは、くず鉄そのものに美しさを見出したためで、それをさらに美的に変身させるためだった。 彼は、次のように宣言して独自の創作に向かった。
「私の目からすると廃物は存在しない。 自分なりの表現を引きだしてくれる可能性だけが私を挑発する。
それは詩の問題、だ。 至るところに存在している美や詩を探しださなくてはならない。
私たち芸術家の仕事は、通常、人が見ていないものを提示することにある。 (中略)汚いとか怪物と称される廃物をレイアウトすることで、優美で美しいとされる物質に勝る精神性と、愛と、詩を引きだすことができる」。
それ以外の廃棄物も、あらゆる芸術を創りだすために使われている。 「貴重なのは素材ではない。
芸術家の選択であり、それを選択する姿勢なのだ」。 ミルヴィア・マグリオンは、台所用品を珍妙な手法で仕切り板に張りつけて、全体をエナメルのペンキで覆ったキッチユな家具を作ったし、イラクの芸術家ハッパは、使い古しのスプーンをねじまげて、フォークを突きたてた人物画を制作している。

「精神障害者」たち――取るに足らない物のなかにある夢精神障害者が創作にごみを使うのは、新しい素材や伝統的な素材を手にいれるのが難しいためではない。 廃棄された物に、一般の人たちとは違う独自な視線を投げかけているからだ。
彼らは、自分の作品がどんな印象を与えるかほとんど気にしないし、自分の周辺から、とくに、ごみ箱のなかから材料を見つけだし利用するのに何のためらいも見せない。 廃物は彼らの幻想を具体化し、夢想を実現するための媒介なのだ。
「精神病患者は、廃物を印象的な効果をもつ不思議な物質として作品の構成要素にしながら、そこに一つの言語を創造しているのである」。 彼らは表現の慣習にそむいて、アカデミックな芸術スタイルとは遠くかけ離れた突飛な作品を創りだしてゆく。
二〇世紀の初頭から、精神科医のなかには、患者の描いた作品を大事にとっておく人たちがいた。 スイスのベルンにあるウアルドー私立病院には、とても荒っぽい手法で作られた模造品があれこれ並べられている。
題材は、短万、ピストル、鍵、飛行機、パラシュートなどで、武器のシンボルであるとともに、自由解放のシンボルでもある品々だ。 精神病患者は、自在な発想で作品を次々と生みだしてゆく。
たとえば、ォースト・フォレステイエは、一八八七年、フランス中南部に位置するロゼールの農家に生まれ、四〇歳を過ぎて精神病院に強制収容された人物だが、入院までの問、ごみ箱に捨てられた廃品や、服飾店と馬具店から出た不用品を使って自分の「宝物」を作りあげていた。 椅子や玩具を制作したり、ときとして家を作ったりするのに、インスピレーションのおもむくまま、こうした廃品を自在に配置していったのだ。
しかも、こうした素材の出所を何ら隠そうとはしなかった。 ジヤン・マールも精神病患者だが、彼は糸くずとパンの身(柔らかい部分)に木の葉を混ぜあわせて絵を創作した。
女性の精神病患者は、ぼろ(繊維ごみ)を利用して創作する傾向があるようだ。 一九三五年、精神病院に送られたエリザがそうだつた。

エリザは種々雑多な太い糸と小さな布きれ、それにウールを使って絵を制作した。 刺繍の縫い目はあらゆる方向にのびながらも、一つになり、重なりあって、激情的な陰影の効果をかもしだしている。
不可解な表象をもったタベストリーを思わせるエリザの作品は、「雌鳥」、『うずくまった馬』、『モンマルトルの古い家』などと名づけられている。 また、ロゼールの農家の娘で分裂症を患っていたマルグリット・シールは、ぼろ布の切れ端を使った刺繍を残している。
シンデレラ物語さながらに、彼女は使い古されたシーツから糸を集めて、その糸だけでレースつきの華麗なドレスを作ったのである。 ジヤン・デユビュッフェは、「生の芸術(アール・ブリユツト)」という概念を創始した人物だ。
生の芸術とは、通常の芸術界の中心から離れた作家たちの本能的で自由な創意から生まれる作品を指す。 両大戦の問、デユピユツフェはパリで精神病患者や「逸脱した職人」たちの作品を集め、これらを「生の芸術会館」に展示した。
この作家がユーモアをまじえて書いているように、「膝を病んでいる病人の芸術というものは存在しても、精神障害者の芸術というものはもはや存在しない。 それどころか、精神病患者や精神分裂症患者たちは、創造力を如実に発揮する。
それは、おそらくすべての人間に共通すると思うが、教育という調教と型どおりの文化が多くの患者を窒息させてきたのは明らかだ」というのは間違いなきそうだ。 「精神障害者」の手になる創作は、シュールレアリストたちを魅了した。
無意識、夢想、統制のとれない観念の融合を描いて視覚に訴えるこうした表現法に、彼らは熱狂したのだ。 一九一七年、作家アンドレ・ブルトンは軍の精神科センターを訪れてそこから感化を受けたし、ドイツの画家マックス・エルンストも、同時期、ボンの精神病院を訪れている。

一九一九年、フランス芸術協会主催のダダ展が聞かれた際、エルンストは自分の作品の隣に精神病院の患者たちの作品を展示した。 これを機に、社会の周辺に押しやられた人たちの作品が注目をあび、市民権を得て、徐々に彼らに対する関心が高まってゆく。
一般の美術館も「生の芸術」を標携する作家たちを受けいれるようになっていった。 一九七六年、ローザンヌでの展示会に際して、ジヤン・デユビュッフェは次のように語っている。

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